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~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~

第33章 精神科医 山口③そして新たな・・・

「先生。どうしてアタシが一人で暮らしたいと、家を出たいと思っているのかきいてくれますか?」

先ほどまで、やや感情的になって苛立ちを見せていた美香が今度は落ち着いて静かにゆっくりと話はじめた。

美香は椅子から立ち上がり窓辺に立ち、外の景色を眺めながら続けた。
夕日が美香のつややかな黒髪に当たり美しい光の輪を作った。

「一つはあの親たちから離れたいということ。もう一つは一人になって自分を自分たちをゆっくり見つめなおしたかったこと。そしてもう一つは・・・先生アタシ・・・アタシ・・・」

美香が言葉を詰まらせ、俯いたまま両手で顔を覆った。細い肩が少し震えていた。

「美香さん大丈夫かい?今は本当に美香さんなのかい?」
私はそう声をかけた。

「もちろん美香です。でもお願い先生。アタシをそんな風にばかり見ないでください。」
美香が震える声で言った。

そして少しの間の後、話を続けた。ゆっくりと切実に想いを伝えるように。

「アタシはずっとこうして先生に話を訊いてもらってきました。自分の中に何人もの人がいるなんていう迷路は、アタシ一人ではとても耐えれなかったはずです。でも先生がいてくれたおかげでアタシは少しづつ前にすすんでいるんだと感じることができました。そして、そう、アタシはいつの頃からかすっかり先生に恋をしていました。今はもう先生が好きで好きでたまらなく苦しくなります。いつもこうしてずっと先生のそばにいたいのです。アタシにはこれからもずっと先生が必要なんです。先生しかいないんです」

美香が振り返り私の方をじっと見つめながら言った。

私は思わず息を飲んだ。

美香の潤んだ大きな瞳があまりにも美しかったからだ。
その深い漆黒の瞳は、今この時間でさえ止めてしまう力があるようにさえ思わせた。

「美香さん・・・」
これほど美しい少女が・・いやこの少女の美しさを私はずっと前から知っている。そしてそれは医者としての立場を越えて私の心を掴んで離さなかった。
その美香が私を好きだと言っている。
私は驚き、言葉を返すことができなかった。

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