
~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~
第36章 精神科医 山口⑥そして新たな……
「はい。先生ここまでよ。ご苦労様。」
美香が私を両手で突き放すようにして離れた。
その顔は笑っても怒ってもいない。いつものように表情が無い人形のような美香の顔だった。
私は美香が何をどうしたいのか全くつかめなかった。
「いったいどいいうことなんだろうか。急に態度が変わったようだ。キミ美香さんなのか?それともさっきのが違ったのだろうか?」
「アタシは美香ですよ」
そう言った美香は笑ったのだろうか。口角がわずかに上がったように見えた。
そして続けた
「でもさっきの、そう先生に恋する乙女は、先生がまだ知らなかったもう一人の人だったんだ」
私は唖然とした。
ここで、このタイミングで6人目のもう一人が現れたというのだ。これはたまたまの偶然か?。いや、違うこれは意図して起こったのだろう。
事態を把握するために、だんだん冷静になってきた私は、今、自分にマズイことが起きようとしていることを感じていた。
「さっきのコは依舞…イブちゃん。アタシより少し上で20歳なんだって。アタシが苦手な、男の人とのコミュニケーションを担当してくれているんだ。依舞ちゃんは男の人がすごく好きなんだって。だからどうすれば男の人が喜ぶかとかよく知ってるんだって」
そう言って美香はスカートのポケットから何かを出して私の目の前に持ってきた。
携帯?違う。もっと小さく小型だ。
「これはボイスレコーダー。授業の録音なんかに使ってるヤツ。ただアタシはとても記憶力がよくて、あまり必要無かったんだけどね。こんな時に役立つなんてね。なんだか可笑しいね。先生。もうわかった?さっきの甘くて危険なお芝居はこれで全部録音したよ。先生の好きだ。好きだって熱い告白もね」
私は強烈な目眩と吐き気におそわれた。
