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~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~

第38章 神戸①


アタシは第一志望の神戸の外大に受かった。

外大を選んだのは、アタシが将来的には日本を離れて言葉も生活環境も文化も違う世界に身を置いてみたいという夢があったからだった。

周りの人から見れば全くの異人である世界で、自分を感じてみたいと思っていたからだ。

そうアタシは異人。

そんな自分に向き合うために。

今までは、そんなことは到底かなわない夢だとずっと思っていた。

ただの現実逃避みたいだと自分でも思っていた。

それが今は、もしかしたら現実に叶うかも知れないとこまで来ているのだ。

家を出ることができ、アタシの夢への扉は開かれた。

トンボの協力により、両親はアタシが村を出ることを驚くほど簡単に、許してくれた。

しかしトンボには少し焦らされた。

両親との話合いの最後のツメの時に

「美香さんの問題はほぼ完治しました。ワ、ワ、私がホ、ホ保証します。今の美香さんはどんな高校生よりも知的で精神的にも、し、し、し、しっかりしています。」

カミカミだった。

なんだあの動揺ぶりは。本当にあの人は精神科医なのだろうかと真剣に疑った。

しかし、アタシの心配をよそに両親たちは(特に母は涙を流しながら)

「先生ありがうございます。先生ありがとうございます。」

と繰り返した。

そして、また村が桜に覆われる前にアタシは神戸に向かった。

アタシの荷物は引っ越し業者の小さなサイズのトラックで運び、足りない物は、両親と一緒にホームセンターなどで買って揃えた。


神戸はアタシが育った村とは別世界の、とても美しい街だった。海と山に囲まれた街は、まるで計算しつくされて作られたジオラマ模型のように洗練されキラキラとしていた。

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