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~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~

第46章 イツキの話し⑥

いつも以上にあっという間だったと感じる夏休みが終わった。

今日からまたあの拷問のような日々がはじまるのかと思うと、全身の力が奪われるような憂鬱な気分になった。
あまりに生々しい傷を少しでも隠すために、薄いニット帽をかぶることを学校に許してもらった。
9月になったとはいえ、まだまだ蒸し暑くてまた気分が滅入ったけどしょうがないと思った。

始業式のはじまる前に学校に着くと、すぐにクラスの一人の男子がボク見つけて、「何それ?」と、ボクの帽子を奪おうとしてきた。
ボクは両手で帽子を押さえて奪われまいとしたけど、その男子の方が上背があったから帽子はすぐにはぎ取られた。

その男子は帽子を上に掲げて、勝ち誇ったかのようにクルクルまわしたけど、ボクの額の傷に気いて一瞬固まった。

「あ。オレ早く行かなアカンねん。これ返すわ」
その男子は焦りながらボクに帽子を返し走って行ってしまった。

その時ボクはこの傷はそんなに気持ち悪いか?と思ったのと同時に自分に今までなかった力が湧いてくるのを感じた。

教室に入るとクラスの生徒はほぼ揃ってるようだった。
不思議なのはだれもボクにちょっかいをかけてこない。無視をされているのかというと、そうでもなさそうだった。チラチラとボクの様子をうかがってるような感じがした。
例の3人組は教室の隅のほうにいた。
ボクと目が合うと、いきなりボクに向かって走ってきた。
はじまった。ボクはそう覚悟したその時。

「イツキ君。この間はホンマに悪かった。この通りやから許してほしい」

イツキ君?いつもならボクをゴッキーとか呼んでる連中が?手を合わせて許しを請うている?
予想外の展開に、はじめボクは戸惑った。
しかし、さすがにこの連中でもあの日、ボクを置いて逃げたことを申し訳なくおもっているんだろう。

「怪我はもう大丈夫なの?」
3人組の一人がきいてきた。やっぱりあの日のことを気にしているんだ。

「うん。ちょっと前まで包帯してたけどもう大丈夫。ただ傷跡がヒドイから帽子かぶってるねん」

ボクは帽子をとって傷跡を少し見せた。

教室が言葉にならない声でザワついた。

3人組は泣きそうな顔をしている。

こいつらだってこんな顔するんだ。ボクがいつもそんな顔しても許してなんてくれないくせに。

ボクは今までにない怒りが湧いてきた。

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