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~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~

第60章 PartTimeLover③

「この石がラピスラズリなんや。この青い色に惚れてな。オレが知ったのは元は絵からなんやけどな。フェルメールって画家は知ってる?」
ボビーさんはそう言って口角を少しだけ上げて首を5度だけ傾けたような感じでボクにきいてきた。
フェルメール。きいたことはある。でも、いつの時代のどこの国の人で、どんな絵を書いたかはわからない。
「名前はきいたことあります」
ボクは答えた。
ボビーさんと比べたら、きっとあきれるくらいの無表情だったと思う。
「そうかそうやな。でもそれでいいんよ。
大事なのは作品なんよ。こういう有名な画家が書いた絵がこれです。なんて教えられるより、この絵ってすごくいい。いったい誰が書いた絵なんだろ?。そんな風にして知る方がずっといい。本当にいいものと触れあってみて感じて、そこから興味を広げるのがいいよな。」
ボビーさんは青い数珠の玉をじっとのぞくように見て言った。
「例えばこういうこともあるよな。これがジョン・レノンのラブだ。って言われて曲を聴かされるより、どこかでたまたまラブをきいて、なんていい曲だと感じて、これはジョン・レノンの曲なんだって教えてもらった方が残るよな。ジョン・レノンのことは知ってた。こんなに素敵な曲を作ってた人なんだって感動があるんょなぁ。」
ボビーさんの言っていることの意味はなんとなくわかった。でも、残念ながらボクにそんな風に何かに出会い感じた経験がなかった。これは感性の問題の話なんだろうか?ボクはこんな時に自分がつまらない人間だと感じてしまう。

「オレの悪いところはすぐに話がそれちゃうとこや。一つの話してて、そこで思いついたことも、まぜこじゃで話てまうんよな」
ボビーさんは小さく、本当に小さくため息をついた。
「ではフェルメールに話を引き返そうか」

そしてボビーさんはにっこり笑った。
なんて気持ちのいい笑顔なんだとボクは思った。

そして自分がすっかりこの人に惹かれて好意を持っていることに気がついた。


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