お兄ちゃんはいちご味
第1章 あまい匂い
パパが教室からあたしの荷物を取ってきてくれた
あたしはパパの車の助手席に座る
ふと、パパの横顔が少し真剣な表情になった。長いまつげが、まばたきのたびに揺れる…
「果乃。喉渇いてるんだろ?」
「…え?」
ガリッ
肉が切れて血が出る音がした
パパは鋭く尖った犬歯で自分の人差し指を噛んで、血を出していた
「な、なにしてんの…!」
「舐めて、果乃」
パパは真っ赤な血が滴った細長い人差し指をあたしに差し出した。
「…え、え……?」
混乱していると、パパは無理矢理あたしの口に指を入れた
「んむ…」
血の味……
なのに、おいしいと感じてしまう…
「なんで今まで言わなかったの?」
「ふぇ…?」
あたしの口に指を入れたままパパが喋り出す
「お前、脱水症状を起こしたんだよ」
「だっすい…?」
「簡単に言えばね。……俺ら吸血鬼体質の人間は、決して純血の吸血鬼じゃない。だから日光に当たって死ぬわけでもないし、十字架も怖くない。まあ、にんにくは個人的に嫌いだけど………でもまあ、所詮"体質"だ。普通の人間より少し老けるのが遅いだけで普通のご飯も食べられる。けど…」
「けど?」
「定期的に人間の生き血を飲まないと、栄養失調を起こすんだよ。ほっとけばひからびて死んじゃうよ?」
ひ、ひからび……
死……………
「果乃は結構危ない状態だったんだよ?今急に誰か他人の血を飲ませるわけにもいかないからとりあえずは俺の血で応急処置したけど…パパの血は吸血鬼体質の血だからあまりたくさんはあげられない。吸血鬼体質同士血を吸うと血が濃くなりすぎちゃうからね。寿命が縮まる」
「パパ、あたしが吸血鬼体質として覚醒し始めてたこと、気付いてたんだ…」
「パパが気付いてないとでも?」
パパがいたずらっぽく笑う。
「とにかく、急にとは言わないけど…そのうち果乃ちゃんも吸血鬼らしく吸血デビューしなきゃならないわけだよ」
あたしが……
吸血鬼…………
今まで何となく気付いてはいたけど、実感がわかない……