『幼なじみ』
第42章 難局
「ごめんなさいね・・・?
気持ちは・・・
分かるんだけど・・・
タクヤさん・・・
まだ・・・
安静にしてなきゃ
ならないの・・・
だから・・・
こっちの椅子に座って・・・
見ていてあげて・・・?
ね・・・?
それと・・・
濡れたおしぼり・・・
渡しておくから・・・
顔・・・拭いて・・・ね・・・?」
弱々しく・・・
布団から手を離した
あたしを・・・
優しく抱えたまま・・・
そっと・・・
背の低い丸椅子に・・・
腰掛けさせた・・・
母性愛の塊のような
その看護師は・・・
温かく濡れた
おしぼりまでも・・・
丁寧に・・・
あたしの手に
握らせてくれる・・・。
そんな折り・・・
何処からともなく・・・
忙しない足音が・・・
忽然と響き渡り・・・
些か気になった
あたしが・・・
ふと顔を上げた瞬間・・・
コンコンと・・・
ノックする音に続いて・・・
扉がガチャッと・・・
開いたかと思うと・・・
白衣を身にまとった・・・
三十代そこそこの
かっぷくの良い男が・・・
病室内に・・・
慌ただしく入って来た・・・。
「えーッと・・・
お待たせしました・・・
私・・・担当医の・・・
堀越と申します・・・。
そちらは・・・
タクヤさんの・・・
お身内の方で
いらっしゃいますか・・・?」
勤勉そうな・・・
医者の顔を見て
ホッとしたのも束の間・・・
拓弥の身内かどうか
いきなり
詮索されてしまい・・・
ただの幼なじみである
このあたしが・・・
これから・・・
どう対処すれば良いのか
見当もつかず・・・
途端にパニックを
起こしそうになるが・・・
壮絶な怪我と
必死に闘っている
拓弥を目の前に・・・
弱音を吐いてる
場合じゃない!と・・・
自分に喝を入れた
あたしは・・・
スクッと・・・
丸椅子から立ち上がり・・・
手にしている・・・
おしぼりを・・・
バサっと広げると・・・
またしても・・・
自分の顔面を・・・
ゴシゴシと思い切り・・・
拭き始めた・・・。