夢で逢えたなら~後宮秘談~
第1章 恋の訪れ
恋の訪れ
百花(ベクファ)は一旦、動かし続けてきた手を止める。まだ三月も漸く半ばを過ぎたばかりだというのに、百花の額には、うっすらと汗が滲んでいる。その汗をいささか煩げに手のひらで拭い、小さな吐息を洩らした。
直に、百花の大好きな季節がやってくる。万物の生命が萌え、蕾が綻ぶ春。あらゆる生きものがそれぞれ思うがままに生命の讃歌を高らかに奏でる春。
物心つくかつかない頃から、百花はこの季節がいっとう好きだった。何か途方もないことが起きるような、何とはなしに心浮き立つ想いに小さな胸を時めかせたものだ。
百花(ベクファ)は一旦、動かし続けてきた手を止める。まだ三月も漸く半ばを過ぎたばかりだというのに、百花の額には、うっすらと汗が滲んでいる。その汗をいささか煩げに手のひらで拭い、小さな吐息を洩らした。
直に、百花の大好きな季節がやってくる。万物の生命が萌え、蕾が綻ぶ春。あらゆる生きものがそれぞれ思うがままに生命の讃歌を高らかに奏でる春。
物心つくかつかない頃から、百花はこの季節がいっとう好きだった。何か途方もないことが起きるような、何とはなしに心浮き立つ想いに小さな胸を時めかせたものだ。