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夢で逢えたなら~後宮秘談~

第5章 妖婦

 今も尹氏が暮らしていた殿舎の近くでは、真夜中の霧の深い夜には血まみれの白いチマチョゴリを着た女が恨めしげな表情で立っている―、などと身の毛もよだつような怪談がまことしやかに語られている場所、それが後宮なのだ。
 血まみれの女は口からも紅い血を滴らせ、〝苦しい、胸が苦しい〟と喉許をかきむしる。尹氏の亡霊を見た者は口を揃えてそう言った。果たして、寝ぼけた老内侍や尚宮の眼を盗んでひそかに逢い引きしていた若い女官と内官の見間違いかどうかは判らないが、目撃者が見た廃妃の姿は皆、共通している。 

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