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夢で逢えたなら~後宮秘談~

第1章 恋の訪れ

 が、人の好い父は相手にひとかけらの疑念も抱かず、人参を乞われるままに籠山盛り持たせて帰した。丁度、しっかり者の母は買い物に出ていて、留守だった。
 母は父には似つかわしくないほどの現実主義者で、もし母がそのとき家にいたなら、恐らく父の無謀を止めていただろう。
―お前さん、騙されたんだよ。
 母は顔色を変えて叫んだ。
 〝そんなはずはない〟と、父は珍しく負けずに言い返した。どんなときだって、母に逆らったことのない父が珍しくムキになっていた。

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