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夢で逢えたなら~後宮秘談~

第1章 恋の訪れ

―あれは、間違いなく七(チル)福(ボク)だ。七福は十三の歳までこの隣に住んでいたんだから、今になって顔を見間違えるはずがない。
―だから、そのあんたの七福がとんでもない悪党になって戻ってきたとは考えもしないの?
 母が問いただしたところ、父は重い口を渋々開いた。七福はかつて両親と共に夜逃げしたのである。二十一年前、職人だった七福の父親は酒代にゆきずまり、娘を売った。二歳違いの妹はわずかばかりの金と引き替えに遊廓に売られ、それでも借金が返せなくて一家はある日突然、かき消すようにいなくなったのだ。

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