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初の恋、終の愛

第1章 デリカシーのないイケメン

 お祭り以外で、と付け加える。
 とたんに4人が言葉を失ったようにしんとした。
「な、なによ。何か言いなさいよ」
 私が意地の悪い人みたいになってるじゃないか。
 三吉が頭を掻きながら私の顔を覗き込んだ。
「いや。その。もしかして頭でも打ったのかなと思って」
「はあああ? どこまで侮辱すれば気がすむわけ? 私はどこもおかしくはありません。いつも通りベッドに入って眠って目が覚めたら変な男たちに囲まれてただけじゃない。変なのはそっちでしょ。どうやって私を連れ出したの? 誘拐?」
「剣呑な言われようだ。整理しよう。いつも通り過ごして、寝床についたはずなのに目がさめるとここにいたと?」
 私は首を縦に振りまくる。
「では、こちらの話をしようか」
 春助が口を開く。私のことを微塵も信用している様子がない。
「朝、店の掃除をしている小僧が店口に倒れているおなごを見つけたと言ってつれてきたのがお嬢さん、あなただ」
「へ?」
「そうなんだ。身に覚えがないかい?」
 若だんなは心配した様子で私の目を見つめる。綺麗な顔に心臓がどきりと跳ねた。
「ないです」
「不思議な話だなあ。もしかして人攫いにあってどこか打ち付けておかしくなったんで捨てられたんじゃ」
 三吉はさっきから失礼なことしか言わない。
「三吉、それはないと思うよ。お嬢さんはどこか打った様子もないし、それに記憶がはっきりしているみたいだ」
 よく言ってくれた若だんな! なんで若だんなと呼ばれているかわからないけれど、まさにその器にぴったりのニックネームだと心の中で叫ぶ。
「しかし、どうしましょうか。こんなよく分からないどこぞのお嬢さんを追いやることもできませんし」
 俳優顔負けの美しい表情で辰五郎が口に手を添える。
「大丈夫です! なんだかよくわからないけど、近くに駅があるなら一人で帰れますから。ここから出してください。あと最寄り駅まで案内してもらえると嬉しいです」
 まだここが現実の世界だと確信を持てないけれど、とにかく家に帰りたい。
 そうすればなんとかなるだろうと思う。
 駅まで案内してくれるくらい大丈夫だろうと思って4人を見つめる。

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