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初の恋、終の愛

第1章 デリカシーのないイケメン

「え? 電車は? 走ってないの? ここ東京じゃないの? ど田舎?」
「田舎ではないよ。江戸なんだから。天下のお膝元さ。しかもここいらは大店が集まる大通り。この店は幹太郎の親父さんの店で有名な薬屋さ。江戸で指折りの名家だぞ」
(は? なに、この古典用語みたいな言葉の数々は。日本史の世界? 大店って聞いたことあるけどそんな言葉使ったことないよ)
「あの、なんの話です?」
「扇田屋だと言えばいいかな。知らないはずがないだろ」
 春助が誇らしげに言う。
 せんだや? なんだそれ。
「……知らないのかい?」
 若だんながやさしく聞いてくる。私はわけの分からない会話に涙目になりながら仏のように優しい顔をしている若だんなに向かって頷いた。
『ええええええ』
 他の3人があからさまに驚いて見せる。そんなに驚くことなのか。扇田屋。そんなのきいたことがない。
「もう。どうなってるのーーーーー!」
 私の叫びが扇田屋中に響き渡っていたと後から聞かされた。

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