売られ少女
第3章 ケントという少年
「ケントお坊っちゃまは、昔はとても優しいお方だった。ご家族はもちろん、私のような使用人にも分け隔てなく接してくださるような…そんなお方だった」
ケントが優しかった…?
今の冷たい笑みを浮かべるケントからは、想像もつかない。
「ケントお坊っちゃまが変わってしまったのは、奥様…ケントお坊っちゃまのお母様が亡くなってからだった」
「えっ…?」
お母さんが?
そういえば、昨日の食事の席にケントの母親らしき人はいなかった。
大柄な男は、まっすぐ前を見つめたまま続けた。
「最愛のお母様を亡くされたケントお坊っちゃまは、本当に見ていられなかった。何日も寝込み、ベッドから起き上がっても外に出て問題を起こし…あれだけ穏やかだったお顔はすっかり荒み、冷たい表情しか見せなくなってしまった」
「…」
「そしてケントお坊っちゃまは、悲しみを埋めるように、悪魔の所業に手を出すようになってしまった。それが…家畜の売買だ」
胸がちくりと痛んだ。
「ケントお坊っちゃまは家畜と称して貧しい少女を金で買い、痛ぶり、辱め、性のはけ口にするようになった。飽きれば他の人間に売りつけ、また新しい家畜を買う…お前はちょうど10人目くらいだ」
「…お母さんを亡くして悲しいのは分かるけど、そこまでやるものかしら? 何が彼をそこまで追い詰めているの?」
「…富をもつ一族には色々な闇があるものだ。死も生も、その背景には様々なものがある。お前のような者には一生分からない」
それから大柄な男は口を閉ざした。
私も、それ以上何かを聞く気にはなれなかった。
ケントという少年…今までは悪魔のようにしか見えなかったが、初めて彼を血の通った人間だと感じた。