イケない同棲生活
第2章 2―契約成立
ぐっと、携帯を握り締める力が自然と強くなる。
そして、ふと思い浮かんだ”彼”の姿。
さらさらの髪と同じ、漆黒の着流しを身に纏う、彼の姿。
願わくば。初めに抱かれるのなら、彼の方がマシだと、そう思う。
『おい』
―――え。
ふと彼を思い浮かべていたからだろうか。
今、あの男の声が聞こえたような?
いやいや、そんなはずがない。
そこまで私の頭はおかしくないはずだ。
『聞いてんの?』
「…・・えっ?!や、やっぱりあの時の!!?」
『うるせぇ…。そうだよ』
思わず大きな声で叫ぶと、不機嫌そうに言い返してきた男の声は、紛れもなくこの機械越しから聞こえてきていて…。
たった今起きていることが現実なのだと知って、強く握っていた手の力が一気に抜けた。
嘘でしょお父さん…。
まさか、あの料亭からあの人を家に呼んだのー?!