イケない同棲生活
第3章 3――新居にて
「なあ、知ってるか?」
そんな私を見て可笑しそうに笑った男は、そっと伸ばしてきた手で私の頬を覆った。
そして、ゆらりと揺れる私の瞳から一ミリも目を逸らさずに言葉を紡いでゆく。
「人肌は、何よりもあったけぇんだってさ」
シュル・・・と、衣擦れの音が静かな室内で音を作る。
私は、その音が何を示しているのか瞬時にわかって、一気に体の熱が上昇した。
「なんで脱いでんのよ?!」
「寒いって言ってただろ」
だからって、上半身だけとはいえ着流しを脱いでさ…?!
「や…っ!!」
「なんだ、そんな声もだせんじゃねぇか」
真正面から抱きしめなくても、いいでしょう…っ!!?
「はっ離してよ…っ」
「うるせぇ。これも慣れだ」
慣れって…!!!
着やせするタイプなのか、彼の引き締まった細身の体の中にすっぽりとおさまった私も半裸状態で。
ドクドクと早鐘のように鳴る心臓を感じれば、こんなの慣れるわけないと断言できる。
「……っ」
「お前、あったけぇな…」
耳元で囁かれる低い声も。
私の背中にまわる逞しい腕も。
彼から伝わる熱も。
私を惑わせるには充分で。
「決まり。今日は裸で向き合うことに慣れさせるからな」
あと、キスも。とつけ加えられた言葉に反論することなく、私は躊躇無く頷いていた。