
イケない同棲生活
第4章 4――偽装生活
「そ、その顔…」
けれど、恐る恐る手を伸ばし、男の頬にそっと触れてみれば、手も凍るような冷たさに驚く。
よくよく見れば、羽織りを肩にかけ、濃い紅色のマフラーを巻く男の鼻先は赤いし、形の良い彼の唇の色もあまりよくなくて。
一体、私を何時間待ってたの…?
あんな寒空の下で、たった羽織り一枚を羽織るだけで、ずっと待っていたの?
「やっぱり、お前あったけぇ」
「、」
本当なら怒ってるはずなのに、頬に添えた私の手に擦り寄ってくる男は瞳を閉じてそう言った。
馬鹿だ。
こいつ、本当に馬鹿だ。
「…おい」
「……」
「なんで泣いてんだよ」
「泣いてない。泣くわけない」
「泣いてんだろ。ほら」
男が冷たい指先で目尻に溜まった涙を拭ってくれる。
それでも”泣いてない”という私に苦笑した男は、
「仕方ねぇな。そういうことにしてやるよ」
呆れたような声を零し、涼しげなその瞳で私を射抜いた。
どきり、とその強い瞳に思わず胸を躍らせるが、気付かれたくなくて、紛らわすために慌てて言葉を探す。
え~~~っと…あ!!そうだ!
「今日、部長から今朝の事聞いた。本当に、ありがとう」
「…あ?俺は何もしてねぇ」
「照れてる?」
「そんなわけねぇだる……っ」
あ、噛んだ。噛んだよこのヒト。
図星だったのか、マフラーに少し顔を埋め、眉間に皺を寄せる男は、精一杯こちらを睨むが、全く怖くない。
「やっぱり」
「ちっ……黙れ。せっかく今回は許してやろうと思ったのに、気が変わった」
