イケない同棲生活
第5章 罠
この、声……!!
振り向かなくてもわかる。
おぞましいあの記憶…!
「宮島 楓!!」
「どーも」
振り向いて視界に入ったのは、長い腕を組み、背中を壁に預ける高身長の無駄にイケメンな男だった。
もちろん、言うもがな宮島 楓であって。目が合うやいなや発する言葉さえ生意気で腹が立つ!!
「なに、あんたが私を呼んだわけ?」
「まあね」
くすり。小さく笑った宮島楓は、預けていた背中をダルそうに壁から離し、ポケットに手を突っ込むと、背中を丸めるように屈みこみ、私の顔を覗き込んだ。
「ちょ、何。近いんですけど」
「……」
無視かよ。
近い、と顔を逸らそうとした時だった。
「峰内先輩。昨日残業の後、男子更衣室でいました?」
「――――……」
私の心臓を凍りつかせる言葉が聞こえたのは。
ドクンッ
思わず大きく目を見開いて、小さく小首を傾げて笑う宮島楓を見つめる。
こんなの、肯定しているのと同然なのに。
「昨日」
宮島楓もそう思ったのか、ぐっと更に距離を縮めると、耳元で小さく囁いた。
ドクンドクンドクン――…
心臓が、早鐘のように鳴り響いて苦しい。
「俺、先輩に謝ろうと思って待ってたんですよね」
ドクンッドクンッ
「そしたら、着流し姿の男と更衣室に入ったと思って近付いてみたら、」
ドクッドクッドクッドクッ
「………っ」
その言葉に続くであろう言葉はわかりきっていた。
けれど、ぎゅぅっと目を強く瞑っていたのに、なぜか無言の宮島楓。