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イケない同棲生活

第5章 罠










「だから、無防備だって言ってんだよ」







とんっと、曲がり角から唐突に現れた大きな壁にぶつかると肩を引き寄せられ、


え。



と思った時には、




「楓、悪かった」



「…ろ、」




温かいそれに、強く抱きしめられていた。




冷たく冷えていた自身の体が、唐突に触れた温もりに、なんの躊躇いも無く浸透してゆく。




「―――…っ」




すると、ずっと我慢していたものが、瞬きした瞬間にぽろぽろと大粒の涙をつくって零れてゆく。





なんで?なんでアンタがここに居るの?



なんでそんなに息を切らして、いつも身に纏う着流しすら乱して。



”しぐれ料亭”なんていうダサい文字いりの羽織りを羽織ったまんまで。



あんたが。





「まひ…ろ」



「ああ」



「まひろ、」


「ああ」



「真弘」







「ああ、ここにいる」








ぎゅうっ





私が存在を確かめるように何度も名前を呼ぶけれど、それに無愛想ながらも返してくれる真弘は、



涙をぽろぽろと流す私を更にきつく抱きしめて、まるで子供をあやかすようにポンポンと頭を撫でてくれた。




仕事はどうしたんだ、とか。なんで来てくれたんだ、とか。聞きたい事はいっぱいあるのに。




「ありが、とう……っ来てくれて、ありがとう…っ」




それよりも先に、お礼を言いたかった。





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