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イケない同棲生活

第5章 罠





真弘の優しさはどうもわかりにくい。




きっと、毒舌を吐きながらも、



息を切らすほど、髪が乱れるほど、仕事を放り出すほど、



私を心配して、走ってきてくれたのだろう。





ただ、私の父親のせいで無理して私と暮らすあかの他人なのに。




なんで真弘は、私の違う様子にいち早く気付いて、こうして傍にいてくれるのか。




「言えよ」




どうしてこんなに、優しく涙を拭ってくれるのか。




それは、彼が不器用ながらも優しいから。



温かい、人だから。




「……本当に、何も無いよ。ただ、久しぶりに一人で帰ると寂しくて」




だからこそ、言えないんだよ馬鹿。




「…嘘なんて吐いていいと思ってんのか?」




けれど、無理矢理口角をあげていた私の口端を、びよょ~ん。



伸ばしたのは真弘で。




「一人で溜め込んで解決しようとすんじゃねぇ」





目を瞬きさせていれば、真弘は呆れたように溜息を吐いた。




眉間に皺を寄せてどこかむっとさせた顔をぐっと引き寄せてきたのは、それのすぐ後の事。




そして、唇に冷たく柔らかいものが触れたのも、そのすぐ後のことだった。





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