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ちょっとえっちな短篇集

第1章 コンプレックス

「主任って、随分と素敵な声でいらっしゃるのね」
くすり、と小馬鹿にした様な声で言われ
比奈木を見上げると楽しそうに笑っていた。
髪をかきあげる。長い髪がさらさらと流れる様子に思わず見とれる。
見られていた、聞かれていたと言う動揺よりも彼女の女性らしい仕草に意識がいった。

彼女のことは知っていた。
もちろん知らないものはいない有名人であることはそうだが、
女性でありながら女性らしさのない自分には、
彼女のような人間は憧れであったのだ。
身体で取り入っているだとか、スケジュールだけでないものも管理しているだとか、
上部の愛人だとか、そう言われるだけの魅力が彼女にはあった。

綺麗に巻かれた髪も濃いといえる化粧も肉感的な体も、
すべてがむせ返るほど女だった。

痩せて柔らかさのかけらもない自分とはどこまでも違う。
同じ女でありながら正反対といえる存在だと、
常日頃から見つめていたのだ。

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