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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第7章 恋紫陽花 参

 が、お民にしてみれば、亭主が息を引き取ったまさにその時、せめて自分が目覚めて傍に居てやりたかった―というのが正直な気持ちだった。女房である自分は傍にいるのに、眠りこけ、兵助はたった一人で旅立ったのだと思えば、我が身の迂闊さに歯がみしたい想いだった。
 亭主の今の際にさえ、自分はちゃんと傍にいて、その手を握りしめてやることすらできなかったのか。
 その後悔の念は、お民を責め苛んだ。

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