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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第1章 恋花(こいばな)一つ目~春の夢~壱

―畜生、喜平の親父、幾ら手前の娘が良い縁づき先を見つけたからって、他人(ひと)のことにまで余計な口出しをするこたァねえじゃないか。
 おみのや太助がまだ達者であった頃から、しばしば通っていた一膳飯屋〝いっぷく〟の親父喜平の一人娘お順は出戻りだった。
 十七の時分、日本橋のさる呉服問屋の若旦那に見初められて嫁いでいったのだが、亭主が店の女中と深間になり、そちらに子までできてしまい、わずか二年半で離縁されて戻ってきた。

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