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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第9章 花いかだ 其の弐

 その餅の中に〝寿〟〝福〟〝浄〟〝徳〟の字があれば、それを拾った者はその一年の幸を約束されるという言い伝えがある。春は桜、秋は紅葉の名所として知られ、江戸の名所図絵にも載るほどであった。
 おれんの店を訪ねてから十日余りが経過していたが、あれから結局、とうとう一度も行くことはなかった。
 弥助は自分で自分の心を持て余している有様だった。日が経つにつれ、むしろ逢わない分、弥助の中でのおれんの占める位置は大きくなっている。

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