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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第13章 山茶花~さざんか~ 其の参  

 その年もいよいよ押しつまった師走のある日、江戸の町外れを一人の男が歩いていた。
 長身の若い男で、濃紺の絣の着物を着流している。男はわずかに右脚をひきずるようにして歩いていた。
 町人町からやって来た男は、和泉橋町と呼ばれる武家屋敷町へゆくのか、二つの町を繋ぐ小さな橋を渡った。
 橋を渡りきったところで、その男―曽太郞の歩みがふっと止まった。切れ長の瞳が大きく見開かれる。

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