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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第13章 山茶花~さざんか~ 其の参  

 幼児が橋のたもとでしゃがみ込み、地面に向かって無心に何かを描いている。小さな手に木ぎれが握られていた。
「坊、一体何を描いているんだ?」
 曽太郞がふと興味を誘われて問うと、子どもが弾かれたように顔を上げた。
「おいらのおとっつぁんの名前。おっかさんが教えてくれたんだ」
 どれと、地面を覗き込むと、〝そうたろう〟とたどたどしい字で書かれていた。
 刹那、曽太郞の心が烈しく高鳴る。

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