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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第13章 山茶花~さざんか~ 其の参  

 その心はあのときも、今もずっと変わらない。曽太郞はこの六年間、たとえ逢うことは叶わずとも、千汐を忘れたことは片時たりともなかった。そして、あの女であれば、自分との約束を今でも守り、待っていてくれると信じてきた。
「どうした、おっかさんは達者か」
 なかなか応えようとせぬ子どもに、曽太郞が更に同じ問いを繰り返したその時。
 子どもの大きな瞳から、ほろりと大粒の涙が落ちた。

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