紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第6章 光と陽だまりの章③
その日も明け方近くまで、そのやわらかで魅惑的な身体を思う存分堪能していたにも拘わらず、またしても、褥に押し倒したいと烈しい情動を感じて下肢が熱くなってしまったほどだ。
無防備な姿で彼の手から林檎を食べる美月は、無邪気な少女のように可愛らしかった。
あの一瞬、晃司は確かに女の心の片鱗に触れ得たと、その頑なな心を掴みかけたと手応えを感じたのに、女はあの後すぐに自ら生命を絶とうとした。
まさに、死をもって彼を拒絶し、その束縛から自由になろうとしたのだ。
晃司は、何か手酷い裏切りに遭ったような、飼い犬に手を噛まれたような意外さと腹立ちを憶えたものだった。
そして、あまつさえ、女は運び込まれた病院からも黙っていなくなった。
晃司にとって、これ以上の侮辱と裏切りはなかった。思い出すだに、怒りで全身が熱くなる。
「―可愛げのない女だ」
唾棄するように言う。
「うっ、うぅ―」
布をくわえさせられた美月は喋ることもできず、涙眼で恨めしげに晃司を見上げた。
そんな美月を、晃司は眼を眇めて冷ややかに見下ろす。
「そう、その眼だ。その瞳が俺を熱く滾らせる。お前は気付いているのか、美月。お前のその強情さが俺を煽り、そそっているのだということに」
晃司は冷笑を消すと、真顔になった。
「こうなったら、なおのこと、お前を誰にも渡さない。今ここで性急に抱いても、お前の心を俺のものにすることはできないだろう。これから連れて帰って、きっちりと仕込み、調教してやる。もう二度と、俺を裏切ることなどないように、お前には厳重な躾が必要らしいからな」
晃司は吐き捨てると、美月を隣のシートに転がしたままエンジンをかけ、車を発車させた。
タイヤが鋭い唸りを上げ軋み、車は信じられないほどの猛スピードで走り始める。十五分ほど走行したところで、速度がわずかに落ちた。
―美月はその瞬間を見逃さなかった。車がスピードを緩めたそのわずかな隙に、美月は助手席のドアを開け、自分から飛び降りたのである。
無防備な姿で彼の手から林檎を食べる美月は、無邪気な少女のように可愛らしかった。
あの一瞬、晃司は確かに女の心の片鱗に触れ得たと、その頑なな心を掴みかけたと手応えを感じたのに、女はあの後すぐに自ら生命を絶とうとした。
まさに、死をもって彼を拒絶し、その束縛から自由になろうとしたのだ。
晃司は、何か手酷い裏切りに遭ったような、飼い犬に手を噛まれたような意外さと腹立ちを憶えたものだった。
そして、あまつさえ、女は運び込まれた病院からも黙っていなくなった。
晃司にとって、これ以上の侮辱と裏切りはなかった。思い出すだに、怒りで全身が熱くなる。
「―可愛げのない女だ」
唾棄するように言う。
「うっ、うぅ―」
布をくわえさせられた美月は喋ることもできず、涙眼で恨めしげに晃司を見上げた。
そんな美月を、晃司は眼を眇めて冷ややかに見下ろす。
「そう、その眼だ。その瞳が俺を熱く滾らせる。お前は気付いているのか、美月。お前のその強情さが俺を煽り、そそっているのだということに」
晃司は冷笑を消すと、真顔になった。
「こうなったら、なおのこと、お前を誰にも渡さない。今ここで性急に抱いても、お前の心を俺のものにすることはできないだろう。これから連れて帰って、きっちりと仕込み、調教してやる。もう二度と、俺を裏切ることなどないように、お前には厳重な躾が必要らしいからな」
晃司は吐き捨てると、美月を隣のシートに転がしたままエンジンをかけ、車を発車させた。
タイヤが鋭い唸りを上げ軋み、車は信じられないほどの猛スピードで走り始める。十五分ほど走行したところで、速度がわずかに落ちた。
―美月はその瞬間を見逃さなかった。車がスピードを緩めたそのわずかな隙に、美月は助手席のドアを開け、自分から飛び降りたのである。