紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第6章 光と陽だまりの章③
〝だって、神さまがそうお決めになったか ら〟
美月は慌ててぎゅうと女の子を抱く腕に力 を込める。
〝ママ、私がいなくなっても哀しまないで。 私はすぐに生まれ変わって、また、ママの ところに帰ってくるから〟
〝本当―?〟
〝本当よ、神さまがちゃんとそうおっしゃ ったもの。ね、だから、それまで哀しまな いで、待っていて。ママが泣いていると、 私まで哀しくなるから〟
女の子の声が遠くなり、美月はハッとした。
腕の中につい先刻まで、あれほどしっかり と抱きしめていた、あの子がいない。
狼狽え、周囲を見回していると、はるか高 い天空から、あの子の声が降ってきた。
〝ママ、約束よ。私が帰ってくるまで、き っと待っててね〟
見れば、女の子の小さな身体はどんどん空 高く飛翔してゆく。
〝駄目、行っては駄目!〟
美月は声を限りに叫んだけれど、いつしか 女の子は光の渦に呑み込まれ、見えなくな った。
〝梅芳、ママを一人にしないで。行かない で〟
美月の眼から、ひとすじの涙が流れ落ちた。
誰かが美月を呼んでいる。
はるか彼方から〝美月、美月、帰っておいで〟と。
―美月、美月。
呼び声にいざなわれるように、美月はゆっくりと眼を見開いた。
「美月ッ、気が付いたのか?」
顔を覗き込んだ勇一の顔がくしゃりと歪み、見る間に涙だらけになった。
「私、どうしちゃったのかしら。何だか長い長い旅から戻ってきたみたい」
美月が訴えると、勇一はまだ泣きながら、幾度も頷いた。
「お帰り、美月」
勇一の声が震えている。
「勇一さん、私、旅の途中であの子に逢ったの」
「あの子―?」
勇一が不思議そうな表情で、美月を見つめる。
美月は慌ててぎゅうと女の子を抱く腕に力 を込める。
〝ママ、私がいなくなっても哀しまないで。 私はすぐに生まれ変わって、また、ママの ところに帰ってくるから〟
〝本当―?〟
〝本当よ、神さまがちゃんとそうおっしゃ ったもの。ね、だから、それまで哀しまな いで、待っていて。ママが泣いていると、 私まで哀しくなるから〟
女の子の声が遠くなり、美月はハッとした。
腕の中につい先刻まで、あれほどしっかり と抱きしめていた、あの子がいない。
狼狽え、周囲を見回していると、はるか高 い天空から、あの子の声が降ってきた。
〝ママ、約束よ。私が帰ってくるまで、き っと待っててね〟
見れば、女の子の小さな身体はどんどん空 高く飛翔してゆく。
〝駄目、行っては駄目!〟
美月は声を限りに叫んだけれど、いつしか 女の子は光の渦に呑み込まれ、見えなくな った。
〝梅芳、ママを一人にしないで。行かない で〟
美月の眼から、ひとすじの涙が流れ落ちた。
誰かが美月を呼んでいる。
はるか彼方から〝美月、美月、帰っておいで〟と。
―美月、美月。
呼び声にいざなわれるように、美月はゆっくりと眼を見開いた。
「美月ッ、気が付いたのか?」
顔を覗き込んだ勇一の顔がくしゃりと歪み、見る間に涙だらけになった。
「私、どうしちゃったのかしら。何だか長い長い旅から戻ってきたみたい」
美月が訴えると、勇一はまだ泣きながら、幾度も頷いた。
「お帰り、美月」
勇一の声が震えている。
「勇一さん、私、旅の途中であの子に逢ったの」
「あの子―?」
勇一が不思議そうな表情で、美月を見つめる。