紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第6章 光と陽だまりの章③
「梅芳よ。あの子、もう行かなくちゃならないって言ってたわ。遠いところに行くから、しばらく帰ってこられないけど、でもすぐに生まれ変わって私たちのところに帰ってくるって。だから、それまで自分がいなくなったことを哀しまずに待っていてって―、そう言ったわ」
美月が夢で女の子が告げた言葉そのままを話すと、勇一の表情がまた、泣きそうに歪んだ。
「そっか、美月は梅芳に逢ったのか。梅芳は美月を哀しませまいと、最後に美月のところにお別れを言いにきたんだな」
勇一が涙声で呟いた。
「美月、ごめんな。俺がお前を守ってやれなかったばかりに、お前にまた、辛い想いをさせた」
美月は白い鉄柵のついたベッドに寝かされていた。壁も天井も白一色の世界、ここが病院であることは、言われなくても判った。身体中、至るところに包帯が巻かれていて、これでは、まるでミイラだ。
勇一は美月の横たわるベッドの枕許に跪き、美月の手を握りしめた。
「お前と梅芳を守ってやるって約束したのに、守ってやれなくて、本当にごめん」
「梅芳は、あの子は死んだのね」
美月の問いかけに、勇一が絶句した。
男だからと必死に堪えているのだろう、肩が小刻みに揺れ、押し殺した嗚咽が時折、低く洩れた。
「美月―」
痛ましげに見つめる勇一に、美月は淡く笑んだ。
「誰が悪いわけでもないわ。ただ、神さまの気まぐれで、ちょっと私が辿るはずだった運命が変わっただけ」
本当は、押口晃司という男だけは許せない。許したくないほど憎んでいる。すべての元凶は、あの男だからだ。
でも、美月はもう誰も恨むまいと決めている。憎んでも憎み足りない男だけれど、晃司は梅芳の父親だ。たとえ、その繋がりの間に憎しみしか存在しないとしても、父と母がいつまでもいがみ合っていては、天に還ったあの子も浮かばれないだろう。
そして、今は、夢の中であの子が言った言葉を信じたい。いつか必ず生まれ変わって美月の許に帰ってくるというあの約束を。
人生における人と人の出逢いには必ず何かの意味があり、不要な出逢いはないのだという。
美月が夢で女の子が告げた言葉そのままを話すと、勇一の表情がまた、泣きそうに歪んだ。
「そっか、美月は梅芳に逢ったのか。梅芳は美月を哀しませまいと、最後に美月のところにお別れを言いにきたんだな」
勇一が涙声で呟いた。
「美月、ごめんな。俺がお前を守ってやれなかったばかりに、お前にまた、辛い想いをさせた」
美月は白い鉄柵のついたベッドに寝かされていた。壁も天井も白一色の世界、ここが病院であることは、言われなくても判った。身体中、至るところに包帯が巻かれていて、これでは、まるでミイラだ。
勇一は美月の横たわるベッドの枕許に跪き、美月の手を握りしめた。
「お前と梅芳を守ってやるって約束したのに、守ってやれなくて、本当にごめん」
「梅芳は、あの子は死んだのね」
美月の問いかけに、勇一が絶句した。
男だからと必死に堪えているのだろう、肩が小刻みに揺れ、押し殺した嗚咽が時折、低く洩れた。
「美月―」
痛ましげに見つめる勇一に、美月は淡く笑んだ。
「誰が悪いわけでもないわ。ただ、神さまの気まぐれで、ちょっと私が辿るはずだった運命が変わっただけ」
本当は、押口晃司という男だけは許せない。許したくないほど憎んでいる。すべての元凶は、あの男だからだ。
でも、美月はもう誰も恨むまいと決めている。憎んでも憎み足りない男だけれど、晃司は梅芳の父親だ。たとえ、その繋がりの間に憎しみしか存在しないとしても、父と母がいつまでもいがみ合っていては、天に還ったあの子も浮かばれないだろう。
そして、今は、夢の中であの子が言った言葉を信じたい。いつか必ず生まれ変わって美月の許に帰ってくるというあの約束を。
人生における人と人の出逢いには必ず何かの意味があり、不要な出逢いはないのだという。