紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第2章 炎と情熱の章②
何というのか、まるで蛇が今にも食らいつこうとする獲物を遠巻きに眺めているような粘着質な眼。それでいて、まなざしそのものは冷えていて、底光りしているような、そんな感じの眼だ。
その眼にじっと見つめられていると、まるで身体がまなざしそのもので縛りつけられてしまうような感じがしてくる。
美月は、まるで感情を表していないこの眼が怖かった。そう、ひと月余り前のこと、社長室に呼び出され突如として〝結婚したまえ〟と不遜な態度で命じてきたときにも一瞬感じた、あの恐怖と全く同一のものだ。
「今日はメガネ、かけてないんだ。まるで別人みたいだね。結婚式のときも思ったけど、こっちの方が良い」
この男の声が少しいつもより高いように思うのは、気の回しすぎだろうか。
「それに」
男の粘りつくような視線がつと動き、美月の顔からゆっくりと下へ向かって降りてゆく。その途中、ふと視線が胸の辺りで止まった。
「もしかして、君は着痩せするタイプなのかな。びっくりしたよ。胸も随分と大きいんだね」
いきなりの科白に、美月は固まるしかない。
な、何―、この男。
美月の混乱も知ることなく、晃司は熱に浮かされたように喋り続ける。
「俺の知り合いに結構有名な下着メーカーの女社長がいてさ」
晃司は、美月でさえよく耳にする女性下着専門の大手メーカーの名を口にした。
そういえば、と、美月は、ぼんやりと思い出した。晃司のファンにしてパトロン的な存在として、この女社長は知る人ぞ知る女性であるということを。
何でも二十代後半で離婚し、一児を女手一つで育てながらも女性下着を作る会社を興し、数年でその会社を一流有名企業にまでのし上げた女傑だという。新聞や女性誌にもよく女性起業家としてその名が登場する。
この現在は四十五歳になる女社長が〝K&G〟の若き社長押口晃司に入れ揚げている―というのは、どうやら嘘ではないらしい。
「そうだ、今度、そこの会社の売れ筋商品か何か買ってきてやろうか。ブラのサイズは―」
言いかけて美月の胸を舐め回すように見るのに、美月はゾッと膚が粟立つ想いだった。
その眼にじっと見つめられていると、まるで身体がまなざしそのもので縛りつけられてしまうような感じがしてくる。
美月は、まるで感情を表していないこの眼が怖かった。そう、ひと月余り前のこと、社長室に呼び出され突如として〝結婚したまえ〟と不遜な態度で命じてきたときにも一瞬感じた、あの恐怖と全く同一のものだ。
「今日はメガネ、かけてないんだ。まるで別人みたいだね。結婚式のときも思ったけど、こっちの方が良い」
この男の声が少しいつもより高いように思うのは、気の回しすぎだろうか。
「それに」
男の粘りつくような視線がつと動き、美月の顔からゆっくりと下へ向かって降りてゆく。その途中、ふと視線が胸の辺りで止まった。
「もしかして、君は着痩せするタイプなのかな。びっくりしたよ。胸も随分と大きいんだね」
いきなりの科白に、美月は固まるしかない。
な、何―、この男。
美月の混乱も知ることなく、晃司は熱に浮かされたように喋り続ける。
「俺の知り合いに結構有名な下着メーカーの女社長がいてさ」
晃司は、美月でさえよく耳にする女性下着専門の大手メーカーの名を口にした。
そういえば、と、美月は、ぼんやりと思い出した。晃司のファンにしてパトロン的な存在として、この女社長は知る人ぞ知る女性であるということを。
何でも二十代後半で離婚し、一児を女手一つで育てながらも女性下着を作る会社を興し、数年でその会社を一流有名企業にまでのし上げた女傑だという。新聞や女性誌にもよく女性起業家としてその名が登場する。
この現在は四十五歳になる女社長が〝K&G〟の若き社長押口晃司に入れ揚げている―というのは、どうやら嘘ではないらしい。
「そうだ、今度、そこの会社の売れ筋商品か何か買ってきてやろうか。ブラのサイズは―」
言いかけて美月の胸を舐め回すように見るのに、美月はゾッと膚が粟立つ想いだった。