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紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~

第3章 炎と情熱の章③

 晃司は低い声で笑いながら、再び美月に近づいてくる。
「どうやら、結局、お前の負けのようだな、美月。俺を甘く見るなと先刻も言っただろう? この俺を見くびったことを、これから時間をかけてたっぷりと後悔させてやろう。どちらにせよ、お前には教育と躾が必要なようだ。何度もお前を抱き、いずれは俺なしでは過ごせないように、お前の方から腰を振って抱いてくれと懇願するようにしてやる。男に抱かれることを何より悦ぶ淫らな身体にしてやろう。せいぜい愉しみにするが良かろうよ」
「お願い、酷いことはしないで」
 美月は震えながら哀願する。
 晃司がフ、と氷のような微笑を浮かべた。
「酷い抱き方をされたくなかったら、大人しく俺の意に従うことだ。従順に俺に脚を開きさえすれば、存分に可愛がってやる」
 晃司は感情の読み取れぬ瞳で美月をしばらく見つめ、思いかけぬことを口にした。
「終日山の伝説を知っているか?」
 唐突に問われ、美月は当惑した。この温泉宿は終日山の頂に建っている。が、その名の由来が今、美月とどう拘わりがあるというのか。美月の困惑をよそに、晃司は意味ありげな笑みを刻む。
「大昔、まだ神世の時代のことだ。荒ぶる男神が美しい女神に求婚したそうな」
 雄々しい男神に女神はたちまちにして恋に落ち、二人の神々は三日三晩に渡ってまぐわった。三日めの夜、男神が女神の奥深くで注いだ精が女神に受け容れられ、女神は身籠もったという。
 やがて、女神は二人の愛の証である子を産み落とした。二人の神の間に生まれたのが終日の尊―つまり、この山だと云われている。単なる伝承にすぎないが、この地方では古くから語り継がれている神話時代の話だった。
 終日という名は、男神と女神が三日夜に渡ってまぐわったことから来ているのだ、と、晃司が含み笑いを洩らした。だが、その美しい笑みは、何とも猥雑な影に彩られていた。幾ら神話とはいえ、あまりに露骨な交合の話など持ち出され、美月は羞恥にたまらなくなり、頬を染めてうつむいた。
 そんな美月を、晃司は満足げに眺めている。淫らな言葉を耳許で囁き、言葉でも女を犯すことに恍惚としている。身も世もなく恥ずかしがる美月を見ることに昏い悦びを見出しているようだ。

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