紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第4章 光と陽だまりの章
生徒の中には様々な人がいて、上は八十近いおじいちゃんから下は小学生までいた。美月の祖父のような年代の人がまだ二十歳の美月を〝先生〟と呼び、実に熱心に学んでいた。
美月もまた、その熱意に少しでも応えたいと、授業が終わった後まで居残った人たちの質問に真摯に耳を傾けた。
あの頃が懐かしい。無垢で、夢や希望にひたすら燃えていた自分をもう一度、叶うなら取り戻したい。でも、それは叶わぬ願いであることも美月には判っていた。晃司にさんざん弄ばれ、汚されたこの身体が厭わしい。あの汚辱にまみれた三日間を消せるものなら、消してしまいたかった。
今はもう、何もかもがどうでも良いような投げやりな気持ちになっている。美月は生きているのだから、生きている限りは腹も空くし、日々の糧を得るためには働かなければならないが、一体、自分がこれから何をしたいのか、何をすべきなのか判らなくなってしまった。
勤めていた会社に戻ることもできず、ちゃんとした仕事がそうそう容易く見つかるとも思えない。
それよりも前に、まず何をしたいという意欲もエネルギーも失ってしまった。
「金田君―」
勇一の顔を見ていると、愉しかった良き日々を思い出し、様々な想いが溢れてくる。
美月は懐かしい名を呼ぶなり、絶句した。
美月の瞳からひとしずくの涙がぽろりと零れ落ち、後は、堰を切ったようにとめどなく溢れた。
ひとたび流れ出した涙は止まらず、白い頬をしとどに濡らす。ひっそりと涙を流し続ける美月を、勇一は眼を丸くして眺めていた。
「ごめんね、急に」
美月が涙をぬぐいながら、それでも無理に笑顔をこしらえると、勇一は小さく首を振った。
「先生、何かあったのか?」
「ううん、何も」
勇一は疑わしそうな表情で、美月を窺うように見ている。
「でも、何もないって感じじゃないよ。俺じゃ全然頼りにならないかもしれないけど、これでも一応、もう社会人だからね。良かったら、相談に乗るけど」
美月はいっぱしの口をきくようになった勇一を見て、微笑んだ。
美月もまた、その熱意に少しでも応えたいと、授業が終わった後まで居残った人たちの質問に真摯に耳を傾けた。
あの頃が懐かしい。無垢で、夢や希望にひたすら燃えていた自分をもう一度、叶うなら取り戻したい。でも、それは叶わぬ願いであることも美月には判っていた。晃司にさんざん弄ばれ、汚されたこの身体が厭わしい。あの汚辱にまみれた三日間を消せるものなら、消してしまいたかった。
今はもう、何もかもがどうでも良いような投げやりな気持ちになっている。美月は生きているのだから、生きている限りは腹も空くし、日々の糧を得るためには働かなければならないが、一体、自分がこれから何をしたいのか、何をすべきなのか判らなくなってしまった。
勤めていた会社に戻ることもできず、ちゃんとした仕事がそうそう容易く見つかるとも思えない。
それよりも前に、まず何をしたいという意欲もエネルギーも失ってしまった。
「金田君―」
勇一の顔を見ていると、愉しかった良き日々を思い出し、様々な想いが溢れてくる。
美月は懐かしい名を呼ぶなり、絶句した。
美月の瞳からひとしずくの涙がぽろりと零れ落ち、後は、堰を切ったようにとめどなく溢れた。
ひとたび流れ出した涙は止まらず、白い頬をしとどに濡らす。ひっそりと涙を流し続ける美月を、勇一は眼を丸くして眺めていた。
「ごめんね、急に」
美月が涙をぬぐいながら、それでも無理に笑顔をこしらえると、勇一は小さく首を振った。
「先生、何かあったのか?」
「ううん、何も」
勇一は疑わしそうな表情で、美月を窺うように見ている。
「でも、何もないって感じじゃないよ。俺じゃ全然頼りにならないかもしれないけど、これでも一応、もう社会人だからね。良かったら、相談に乗るけど」
美月はいっぱしの口をきくようになった勇一を見て、微笑んだ。