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紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~

第4章 光と陽だまりの章

 この五年の歳月は美月を変えたように、勇一をもすっかり変えたようだ。かつてまだニキビ跡のわずかに残るあどけなさすら漂わせていた十五歳の少年は、今、逞しい二十歳の青年となって美月の前に立っていた。
 もう、五年前の面影は殆どない。あの頃は身長だって美月より少し低いくらいだったのに。そう思うと、勇一の成長が眩しいような、少しだけ淋しいような気がした。
 だが、そんな風に思うのは美月の一方的な感傷だろう。美月は彼にとって既に過去の人間に他ならない。たまたま運命が今日、ここで二人を束の間、引き合わせただけにすぎないのだから。
「社会人―、金田君、大学には行かなかったの? あんなに成績が良かったのに」
 言ってしまってから、美月は口を押さえた。
「ごめんなさい。私ったら、余計なことを」
 何という愚かなことを言ったのか。勇一には勇一の事情があり、人生があるというのに、それは美月が口を出すべき類の話ではない。
 美月が立ち尽くしていると、勇一は屈託ない笑みを見せた。
「全然、俺、気にしてないから。先生、俺んちはあれから色々とあったんだよ。俺が高校に入ってすぐに親父が飛行機事故で死んじまってさ。お袋は去年、再婚した。今度の旦那が韓国の人なんで、今はあっちに帰ってるけど。そういうわけで、急に母子家庭になっちまったもんだから、予定が狂っちまったんだよ。そりゃア、奨学金とか貰って大学に行くって手もあったけど、それでも、お袋に余計な負担をかけることは判ってたしさ。だから、そんなんなら、いっそのこと、きっぱり諦めて別の道を探した方が良いと思って」
 勇一は、すぐに慌てたように付け加えることも忘れなかった。
「あ、言っとくけどね、二番目の親父も良い人なんだよ。俺のことも本当の息子のように思ってくれてるみたいだし、俺にもあっちに帰ってきて一緒に暮らそうって、ずっと前から言ってくれてるんだ。でも、向こうも再婚で、まだ高校生の息子がいるしね、今更俺が転がり込むのもどうかなって思うわけよ」
 〝二番目の親父〟という言葉が今の勇一の精一杯の心―義父を父親と認めようとする気持ちを表しているようだった。母親の再婚相手を庇おうとするその優しさは、いかにも勇一らしいもののように思える。
「そう、だったの。本当にごめんなさい。私ってば、全然知らなくて」
 美月がなおも謝罪の言葉を口にすると、勇一は笑った。

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