
紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第4章 光と陽だまりの章
贈り主の美月としては嬉しい限りだけれど、九月からセーターを着込んでいては、いくら何でも暑かろうと思う。
―せめてもう少し寒くなってから、着たら?
美月がどれほど言ってみても、勇一はこれだけは譲らなかった。
が、今夜ばかりは流石に我慢できなかったと見え、セーターを傍に脱ぎ捨て、〝美味しい〟を連発しながら次々と平らげている。勇一の器が空になる度に鍋奉行をもって任じる美月が具をよそおってやる。
勇一の健啖ぶりは、見ていても気持ちの良いものだった。
と、夢中になって食べていた勇一が箸を止めた。
「おい、ポッキー。何してるんだよ?」
美月もその声に誘われるように視線を動かすと、愛犬のポッキーが勇一のセーターをくわえて、しきりに引っ張っている。
そう、このアパートは何故か犬や猫を飼っても良いという今時珍しいところなのだ。何でも大家さんが大の動物好きらしい。とはいえ、屋内で飼うときは放しても良いが、部屋から一歩でも連れ出すときは、きちんと繋ぐか抱くようにと決められている。
住人の中には犬や猫の苦手な人もいるだろうから、それは当然のマナーというか決まりだと思う。
それにしても、ポッキーは不思議な犬だ。
飼い主の勇一でさえ、ポッキーが一体何という種類の犬なのか知らない。柴犬とか秋田犬などではないことは一目瞭然で、恐らくは(勇一に言わせれば)〝テリア、もしくはチワワの血が混ざった雑種〟ということになるらしい。
テリアとチワワでは外見からして全然違うと美月などは思うのだけれど、勇一はそう主張しているし、事実、信じて疑っていないようだ。別にポッキーが何種の犬であろうと現実的には何の問題もないので、美月は敢えて異を唱えようとはしない。
それはともかく、じっと眺めていると、実に愛敬のある犬で、全体が真っ白な毛玉のようで、所々に茶色いブチがあることから〝ポッキー〟と名が付いたらしい。ポッキーというのは、むろん、あの某有名菓子メーカーの出しているチョコレート菓子のことである。
何でもポッキーは大家さんが道端に棄てられていた子犬を哀れんで拾ってきたのを、更に勇一が引き取ったという。
―せめてもう少し寒くなってから、着たら?
美月がどれほど言ってみても、勇一はこれだけは譲らなかった。
が、今夜ばかりは流石に我慢できなかったと見え、セーターを傍に脱ぎ捨て、〝美味しい〟を連発しながら次々と平らげている。勇一の器が空になる度に鍋奉行をもって任じる美月が具をよそおってやる。
勇一の健啖ぶりは、見ていても気持ちの良いものだった。
と、夢中になって食べていた勇一が箸を止めた。
「おい、ポッキー。何してるんだよ?」
美月もその声に誘われるように視線を動かすと、愛犬のポッキーが勇一のセーターをくわえて、しきりに引っ張っている。
そう、このアパートは何故か犬や猫を飼っても良いという今時珍しいところなのだ。何でも大家さんが大の動物好きらしい。とはいえ、屋内で飼うときは放しても良いが、部屋から一歩でも連れ出すときは、きちんと繋ぐか抱くようにと決められている。
住人の中には犬や猫の苦手な人もいるだろうから、それは当然のマナーというか決まりだと思う。
それにしても、ポッキーは不思議な犬だ。
飼い主の勇一でさえ、ポッキーが一体何という種類の犬なのか知らない。柴犬とか秋田犬などではないことは一目瞭然で、恐らくは(勇一に言わせれば)〝テリア、もしくはチワワの血が混ざった雑種〟ということになるらしい。
テリアとチワワでは外見からして全然違うと美月などは思うのだけれど、勇一はそう主張しているし、事実、信じて疑っていないようだ。別にポッキーが何種の犬であろうと現実的には何の問題もないので、美月は敢えて異を唱えようとはしない。
それはともかく、じっと眺めていると、実に愛敬のある犬で、全体が真っ白な毛玉のようで、所々に茶色いブチがあることから〝ポッキー〟と名が付いたらしい。ポッキーというのは、むろん、あの某有名菓子メーカーの出しているチョコレート菓子のことである。
何でもポッキーは大家さんが道端に棄てられていた子犬を哀れんで拾ってきたのを、更に勇一が引き取ったという。
