
紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第4章 光と陽だまりの章
傍目には、美月と勇一は〝同棲〟していると思われている。一緒に暮らしているのだから、同棲だといわれれば、違いはないのだけれど、同棲という言葉には何かこう、もっと男と女の濃密な繋がりを匂わせるものがあるように思えるのは美月の考え過ぎだろうか。
とにかく、二人の間には何もなく、あくまでも単なる同居人同士の域を出ない。が、これを言ったとしても、信じてくれる人は少ないだろう。
が、まさか律儀に結婚祝まで持ってきてくれる奇特な人がいるとは考えてもみなかった。その時、既に勇一は仕事に出ていたし、白石さんは美月の話もろくに聞こうともせず、さっさと金包みを置いて、帰っていった。
美月は夕方になって勇一が帰ってくるのを待ち、事の次第を話した。相談の上、二人で白石さんの自宅を訪ね、金包みを返したのである。
もちろん、自分たちの関係がそんなものでないことをちゃんと話し、説明した上での話だ。白石さんは拍子抜けというか、がっかりしたような顔で〝何だ、そうだったのか〟と茫然としていた。その傍らで上品な笑顔の似合う奥さんが〝あなたったら、本当に昔から早とちりなんですから〟と笑っていた。
もし、自分もいつか遠い未来、本当に結婚するとしたら、白石さん夫妻のように穏やかで笑いの絶えない家庭を築けたら―、美月は二人のいかにも仲睦まじい姿を目の当たりにして、そんなことを考えたものだった。契約などという馬鹿げた形式で繋がっただけの夫婦ではなく、互いに必要とし合い、心から愛し合える、ただ一人の男性とめぐ逢いたい。
たとえ、ささやかで慎ましい暮らしでも良い、贅沢なんてできなくても良いから、真実の、本物の愛で結ばれて結婚したかった。
でも、現実には、そんなことがあり得るはずもないし、許されるはずがないのだ。他の男にさんざん汚されて、慰み者にされてしまった美月には、もう望むすべもない幸せの幻影だった。
それは、けして望んではならない、身の程知らずな夢。
室内は落ち着いた雰囲気の内装で、全体的に深いブルーを基調としている。テーブルや椅子もすべて、深い海の底を思わせる色だ。そのため、抑えめにした照明が蒼白い光をブルーの絨毯に投げかけていて、さながら海中にいるような錯覚さえ抱かせる。
淡い照明を浴びた勇一の整った若々しい顔を、美月は切ない気持ちで見つめた。
とにかく、二人の間には何もなく、あくまでも単なる同居人同士の域を出ない。が、これを言ったとしても、信じてくれる人は少ないだろう。
が、まさか律儀に結婚祝まで持ってきてくれる奇特な人がいるとは考えてもみなかった。その時、既に勇一は仕事に出ていたし、白石さんは美月の話もろくに聞こうともせず、さっさと金包みを置いて、帰っていった。
美月は夕方になって勇一が帰ってくるのを待ち、事の次第を話した。相談の上、二人で白石さんの自宅を訪ね、金包みを返したのである。
もちろん、自分たちの関係がそんなものでないことをちゃんと話し、説明した上での話だ。白石さんは拍子抜けというか、がっかりしたような顔で〝何だ、そうだったのか〟と茫然としていた。その傍らで上品な笑顔の似合う奥さんが〝あなたったら、本当に昔から早とちりなんですから〟と笑っていた。
もし、自分もいつか遠い未来、本当に結婚するとしたら、白石さん夫妻のように穏やかで笑いの絶えない家庭を築けたら―、美月は二人のいかにも仲睦まじい姿を目の当たりにして、そんなことを考えたものだった。契約などという馬鹿げた形式で繋がっただけの夫婦ではなく、互いに必要とし合い、心から愛し合える、ただ一人の男性とめぐ逢いたい。
たとえ、ささやかで慎ましい暮らしでも良い、贅沢なんてできなくても良いから、真実の、本物の愛で結ばれて結婚したかった。
でも、現実には、そんなことがあり得るはずもないし、許されるはずがないのだ。他の男にさんざん汚されて、慰み者にされてしまった美月には、もう望むすべもない幸せの幻影だった。
それは、けして望んではならない、身の程知らずな夢。
室内は落ち着いた雰囲気の内装で、全体的に深いブルーを基調としている。テーブルや椅子もすべて、深い海の底を思わせる色だ。そのため、抑えめにした照明が蒼白い光をブルーの絨毯に投げかけていて、さながら海中にいるような錯覚さえ抱かせる。
淡い照明を浴びた勇一の整った若々しい顔を、美月は切ない気持ちで見つめた。
