紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第4章 光と陽だまりの章
「愉しみだな。そうなると、今度は俺が先々だね」
そのおどけたような物言いに、二人は顔を見合わせ、どちらからともなく吹き出した。
それから、彼は表情を和ませたまま、ゆっくりと言った。
「ハッピーバースデー、先生」
勇一が少しはにかんだ表情を見せた。
美月は勇一が差し出した包みを眼を見開いて受け取る。
「気に入ってくれると良いんだけど」
美月は銀色の包装紙で包まれたそれを丁寧に開けた。紙箱の蓋を開けると、内から現れたのは、小さな正方形のオルゴールだった。
一見したところ和風の小物入れのように見える。全体が黒塗りで、蓋にはこの季節にふさわしく秋桜の絵が描かれていた。
美月は、そっとオルゴールを開けた。その刹那、ユーミンの〝ANNIVERSARY〟のメロディが流れてきた。
♪あなたを信じてる
あなたを愛してる
心が透き通る
今日の日が記念日♪
耳に馴染んだ旋律に合わせて、ユーミンのちょっとハスキーなノリの良い歌声が聞こえてくるようだ。
「―ありがとう。とっても嬉しい」
美月はじんわりと込み上げてくる涙を堪え、勇一に微笑みかけた。
「我がままを言いついでに、一つだけお願いがあるの」
「何? 今日は特別な日だから、何でも良いよ。俺にできることなら叶えてあげる。言ってみて」
美月は勇一の眼を真っすぐ見つめて、ひと息に言う。
「もう、その先生って呼ぶのは止めて欲しいの」
「何だ、そんなことか」
勇一が含み笑った。
「もっと難しいことかと思ったよ。じゃあ、何て呼べば良い?」
大真面目に問う勇一に、美月は、やはり真面目に応えた。
「名前で―呼んで欲しいの」
その瞬間、勇一の眼が大きく見開かれた。
「本当に、それで良いのか?」
美月は恥ずかしさに頬を染めて、コクリと頷く。
そのおどけたような物言いに、二人は顔を見合わせ、どちらからともなく吹き出した。
それから、彼は表情を和ませたまま、ゆっくりと言った。
「ハッピーバースデー、先生」
勇一が少しはにかんだ表情を見せた。
美月は勇一が差し出した包みを眼を見開いて受け取る。
「気に入ってくれると良いんだけど」
美月は銀色の包装紙で包まれたそれを丁寧に開けた。紙箱の蓋を開けると、内から現れたのは、小さな正方形のオルゴールだった。
一見したところ和風の小物入れのように見える。全体が黒塗りで、蓋にはこの季節にふさわしく秋桜の絵が描かれていた。
美月は、そっとオルゴールを開けた。その刹那、ユーミンの〝ANNIVERSARY〟のメロディが流れてきた。
♪あなたを信じてる
あなたを愛してる
心が透き通る
今日の日が記念日♪
耳に馴染んだ旋律に合わせて、ユーミンのちょっとハスキーなノリの良い歌声が聞こえてくるようだ。
「―ありがとう。とっても嬉しい」
美月はじんわりと込み上げてくる涙を堪え、勇一に微笑みかけた。
「我がままを言いついでに、一つだけお願いがあるの」
「何? 今日は特別な日だから、何でも良いよ。俺にできることなら叶えてあげる。言ってみて」
美月は勇一の眼を真っすぐ見つめて、ひと息に言う。
「もう、その先生って呼ぶのは止めて欲しいの」
「何だ、そんなことか」
勇一が含み笑った。
「もっと難しいことかと思ったよ。じゃあ、何て呼べば良い?」
大真面目に問う勇一に、美月は、やはり真面目に応えた。
「名前で―呼んで欲しいの」
その瞬間、勇一の眼が大きく見開かれた。
「本当に、それで良いのか?」
美月は恥ずかしさに頬を染めて、コクリと頷く。