紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第1章 炎と情熱の章①
無下に断るわけにもゆかず、〝私は早百合ちゃんと違って、そういうのって向いてないから〟と遠回しに拒否すると、何を勘違いしたものか、早百合いわく
―あっ、そうか。そうですよねェ、でも、速見先輩、大丈夫ですよ。その点はご心配なく、お化粧とか服とかは、お店の方でちゃんと指導して貰えますって。うちの店のママって、センス抜群だし、美人はより美人に、ブスだってそれなりには見えるようになりますってェ。
このときばかりは事なかれ主義の美月も流石にこの生意気でお節介な女をぶん殴ってやろうかと本気で思ったほどである。
―大きなお世話だよッ。
内心で毒づいてやった。
それに、仮に時給ン万円になるとしても、ホステスなんて仕事が美月の性分に合うはずもないのだ。よしんば化粧や服で外見は上手く化けたとしても、助平な客に胸や尻を撫でられたり身体に手を伸ばされたりするのは死んでもご免蒙りたい。
「ああ、折角の休み時間に済まないね」
社長室の立派な革張りの椅子にゆったりと座った社長は、ものやわらかな笑みを浮かべる。通称〝キラー・スマイル〟、視線一つで女を落とせるという専らの噂の微笑らしい。
この社長―押口晃司は、この日本を代表する子ども服の専門店チェーン〝天使の樹〟を傘下におさめるアパレル・メーカー〝K&G〟ホールディングスの若き社長である。
当年とって三十一歳、誰もが熱い視線を送る花の独身。この男は数えて四代目の坊っちゃん社長で、小学校から大学まで慶応、とどめにイギリスのエール大学の大学院を卒業して帰国した。
〝K&G〟ホールディングスの創業者押口順二郎の曾孫に当たる。輝かしい経歴だけでなく、容姿もそれを裏切らず、身長百七十三センチ、体重六十キロと均整の取れた身体と俳優の谷原章介を彷彿とさせる理知的で甘い顔立ちは全女子社員の憧れの的であった。
押口晃司は政財界でもきっての名家の御曹司である。優れた経営手腕とモデル並のルックスを併せ持ち、ビジネス雑誌や女性誌でも再々その表紙を飾ってきた。その注目度は下手なタレントよりはよほど高く、若い女性のファンも多い。
―あっ、そうか。そうですよねェ、でも、速見先輩、大丈夫ですよ。その点はご心配なく、お化粧とか服とかは、お店の方でちゃんと指導して貰えますって。うちの店のママって、センス抜群だし、美人はより美人に、ブスだってそれなりには見えるようになりますってェ。
このときばかりは事なかれ主義の美月も流石にこの生意気でお節介な女をぶん殴ってやろうかと本気で思ったほどである。
―大きなお世話だよッ。
内心で毒づいてやった。
それに、仮に時給ン万円になるとしても、ホステスなんて仕事が美月の性分に合うはずもないのだ。よしんば化粧や服で外見は上手く化けたとしても、助平な客に胸や尻を撫でられたり身体に手を伸ばされたりするのは死んでもご免蒙りたい。
「ああ、折角の休み時間に済まないね」
社長室の立派な革張りの椅子にゆったりと座った社長は、ものやわらかな笑みを浮かべる。通称〝キラー・スマイル〟、視線一つで女を落とせるという専らの噂の微笑らしい。
この社長―押口晃司は、この日本を代表する子ども服の専門店チェーン〝天使の樹〟を傘下におさめるアパレル・メーカー〝K&G〟ホールディングスの若き社長である。
当年とって三十一歳、誰もが熱い視線を送る花の独身。この男は数えて四代目の坊っちゃん社長で、小学校から大学まで慶応、とどめにイギリスのエール大学の大学院を卒業して帰国した。
〝K&G〟ホールディングスの創業者押口順二郎の曾孫に当たる。輝かしい経歴だけでなく、容姿もそれを裏切らず、身長百七十三センチ、体重六十キロと均整の取れた身体と俳優の谷原章介を彷彿とさせる理知的で甘い顔立ちは全女子社員の憧れの的であった。
押口晃司は政財界でもきっての名家の御曹司である。優れた経営手腕とモデル並のルックスを併せ持ち、ビジネス雑誌や女性誌でも再々その表紙を飾ってきた。その注目度は下手なタレントよりはよほど高く、若い女性のファンも多い。