紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第5章 光と陽だまりの章②
確かに、晃司の手から逃げ出すことがなければ、駅前のコンビニに入ろうなどと考えることもなかったはずだ。あの店で、美月は勇一と運命的な再会を果たした。
ならば、晃司との出逢いと別離が勇一との再会をもたらした―、もしくはその次に勇一との再会を用意していた?
美月は今こそ、漸く知り得た。
もしかしたら、晃司との縁にさえ、何らかの意味があったのではないか。むろん、それは奇しき縁というよりは、あまりにも皮肉すぎる出逢いであり、結果として美月だけでなく多分、晃司をも不幸にしてしまっただけではあろうけれど。
〝一つ一つの出逢いに意味がある。それは、 人が必ず何かしらの役割や使命を担ってこ の世に生まれてくるのと同様、この世の真 理である。
たとえ、どのような出逢いも、そこには 大いなる神の御心が働いており、無駄な出 逢いは人生に一つとしてないのだ。〟
美月はいつだったか、学生の頃に原書で読んだ外国のある思想家のエッセイの一文を思い出していた。
「結婚しないか?」
あまりにもさらりと言われたので、初め、美月は何のことか判らず、きょとんとした。
「籍を入れよう」
次の科白で、漸くプロポーズを受けているのだと気付く。あまりの幸せにめまいさえ、しそうだ。
しかし、次の瞬間、美月は急に奈落の底に突き落とされたかのように、眼の前が真っ暗になった。
「でも、私はまだ法律上は押口の妻ということになっているのよ。こんな状態であなたと結婚することはできないわ」
美月の絶望の呻きにも拘わらず、勇一は事もなげに笑う。
「要は、俺と美月さんの心だよ。俺たちが結婚して夫婦になったんだと思えば、それで良いんじゃないのか」
それに、と、勇一は美月を安心させるように微笑みかけた。
「俺もいつまでもこのままの状態で放っておくつもりはないよ。俺の高校時代の親友の親父さんが弁護士をやってるんだ。一度、そいつを通じて親父さんに相談してみるよ。もしかしたら、時間はかかるかもしれないけど、必ず向こうを説得して離婚届を書かせて、美月さんを自由の身にしてやるから。そのことは、俺を信じて任せてくれないか」
ならば、晃司との出逢いと別離が勇一との再会をもたらした―、もしくはその次に勇一との再会を用意していた?
美月は今こそ、漸く知り得た。
もしかしたら、晃司との縁にさえ、何らかの意味があったのではないか。むろん、それは奇しき縁というよりは、あまりにも皮肉すぎる出逢いであり、結果として美月だけでなく多分、晃司をも不幸にしてしまっただけではあろうけれど。
〝一つ一つの出逢いに意味がある。それは、 人が必ず何かしらの役割や使命を担ってこ の世に生まれてくるのと同様、この世の真 理である。
たとえ、どのような出逢いも、そこには 大いなる神の御心が働いており、無駄な出 逢いは人生に一つとしてないのだ。〟
美月はいつだったか、学生の頃に原書で読んだ外国のある思想家のエッセイの一文を思い出していた。
「結婚しないか?」
あまりにもさらりと言われたので、初め、美月は何のことか判らず、きょとんとした。
「籍を入れよう」
次の科白で、漸くプロポーズを受けているのだと気付く。あまりの幸せにめまいさえ、しそうだ。
しかし、次の瞬間、美月は急に奈落の底に突き落とされたかのように、眼の前が真っ暗になった。
「でも、私はまだ法律上は押口の妻ということになっているのよ。こんな状態であなたと結婚することはできないわ」
美月の絶望の呻きにも拘わらず、勇一は事もなげに笑う。
「要は、俺と美月さんの心だよ。俺たちが結婚して夫婦になったんだと思えば、それで良いんじゃないのか」
それに、と、勇一は美月を安心させるように微笑みかけた。
「俺もいつまでもこのままの状態で放っておくつもりはないよ。俺の高校時代の親友の親父さんが弁護士をやってるんだ。一度、そいつを通じて親父さんに相談してみるよ。もしかしたら、時間はかかるかもしれないけど、必ず向こうを説得して離婚届を書かせて、美月さんを自由の身にしてやるから。そのことは、俺を信じて任せてくれないか」