テキストサイズ

BL短編

第5章 罠に掛かるは甲か乙か

灰色によく見ると細いラインが入っているスーツ姿の男。
身長が知っている頃より伸びたようだし、スーツ姿なんて初めて見たけれど、見間違えようがない。

「山下...。」
俺の、昔大好きだったひと。


「...まあ、入ろうぜ。」
山下は考え事をするとき、人差し指の側面を唇に当てる。その昔の癖が出ていたけど、俺何かしたか...?

「ああ。」
入店を促され入り口に近づけば人工的な香りがした。

香水?
メンズとも、レディースとも取れるユニセックスな香り。
山下の香水かもしれないし、移り香するほど親密な関係の人がいるのかもしれない。

会ったばかりでそんなことを聞けるはずもなく、心がざわついて、無性にイライラした。


店内がうるさい。居酒屋なんてどこもそんなものだけど。
でもどうやらそれだけではないようで。

『申し訳ございません!このあと団体のお客様の御予約が入って居りまして...!』
前の客が店員に文句を言っているところだった。

「らしいけど、待つ気しないよな。他にどっか酒飲めるとこある?」
「少し歩くけどあるよ。」

入ったばかりの店を出て、煙草を1本取り出す。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ