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BL短編

第5章 罠に掛かるは甲か乙か

そこからまた二人、無言で酒を口に含むだけだった。

酒が旨くない。煙草もまるで無味。
味を感じない。

でも何もしないでその場に居れるほど、今の俺は余裕がなくて、酒にも煙草にも手が伸びる。




体がすごいぽかぽかする。飲みすぎたかな。
回らない頭で考えていると、横から山下が俺を見てる。
「なんだよ。」
「飲みすぎじゃないか?康介。マスターがお前そんなに酒強いほうじゃないって心配してたぞ?」

「俺が俺の好きなように飲んじゃ悪いって言うのかよ!」
ガタガタと椅子を鳴らし立ち上がるけど、足が浮いたようにふよふよして上手く立てない。

「足元おぼつかない状態の奴が言う台詞じゃないぞ。」
山下に支えられるけど、それが更に俺の機嫌を悪くして。
「触んなっ!」

山下の手を払い除けて、椅子に座り直す。
やっぱり会わなければ良かったと本当に思う。後悔してももう遅い。

嫌でも気付かされる。

山下は東京で前に進んでいて。
俺だけが取り残されて、今も心の奥底でくすぶったままの気持ちを引きずっているのだと。



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