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BL短編

第5章 罠に掛かるは甲か乙か

苦しげな表情のまま、山下が俺を抱きしめる。突然のことに体が強ばるのに、嫌なのに、その腕を振り解くことができない。


「康介全然連絡来ないから、やっぱ無理かなって、会えないなら1回家帰って、それから終電でこっち来る気でいたのに。
今日になって会うって連絡来たから慌てたけど、仕事早く終わらせて、その足でこっちまで帰ってきたんだ。」

話すことが義務とでも言うように、省いてもいいようなことまで、細部まで山下が話し始めた。

「煙草吸ってるなんて今日初めて知ったし、康介からは煙草の匂いしかしないし、一人称“俺“になってるし、性格キツくなってるし、今したキスだって煙草の味だし、俺の知ってる康介じゃなくなってて、寂しいよ。」

今日会った俺に幻滅したとか言うのか?

「なんで、俺がそんなこと言われなきゃっ...!」
ふつふつと怒りと悲しみが込み上げて、怒鳴るようにぶちまける。

「山下がっ!大学行ってから俺のこといらないみたいに、連絡寄越さなくなったんじゃないか!俺だって待ってたんだ!待ってたんだよ...!
煙草だって、振られたのかとか、いらないのかとか、大学で彼女作ったんじゃとか考えたら、落ち着かなくて、不安で仕方なくて吸い始めたんだ、こんな俺にしたのは山下なのにっ...!なんで山下に責められなきゃいけないんだよ...!」

涙も、鼻水まで出始めて、俺の顔はぐちゃぐちゃだ。
もう昔のように戻れないなら、全部言ってしまおう。

「今でも引きずってるくらい、あの頃の俺はお前が好きだったよ。だから東京に染まってる今のお前は大嫌いだ。だから帰ってくれ。今山下と話しても滅入るだけなんだ。」


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