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BL短編

第5章 罠に掛かるは甲か乙か

「自分勝手で本当に申し訳ないと思う。でもあれがデマなら、自分の本心を言いたい。
俺ともう一度、付き合ってほしい。」

これはなんだ。悪い夢か。
都合のいい夢を見ているのか。

「お、お願いします。」

仕事中によくやる深々としたお辞儀をしてから顔をあげると、唇を再度奪われる。
今度は深く、10年ぶりとまでは行かないが、長い長い忘れられた時間を埋めるように。

「またこうして康介を抱きしめて、キスできるなんて考えもしなかった。本当に嬉しいよ。だけどキスが煙草の味だと言うのはどうにかならないかな...。」

ああどうしよう。

「辞めるよ。今、吸う理由がなくなったんだ。山下がいるなら煙草はいらないから。」

これが夢なら明日俺は飛び降りて人生を終えそうなぐらい、幸福感に満ちている。
どうか現実であってほしい。
頬をつねれば確かに痛かった。


コツコツコツとヒールの独特な足音が聞こえる。
すっかり二人の世界だったけど、路上だった。

女性が通りすぎるのを見届ける。
「とりあえず、俺の家のほうが近いし、良かったら来る?」

せっかく通じ会えたのに、もう離れるのはもったいなくて。まだもう少し一緒に居たかった。




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