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「楓、顔をあげてくれぬか。」

光秀の綺麗な手が楓の頬を包む。
昨日から泣き張らし続けている楓は恥ずかしくて顔をあげるのを戸惑っていた。それでも光秀の手が楓の顔を上へ向かせる。

「涼やかなそなたの顔が、こんなに腫れ上がるまで泣くとは。やはり意に添わぬことであったのではないか。
辛かったであろう。よう耐えておるな。」

楓は光秀から優しい言葉をかけられ、何かが崩れ落ちていくのを感じた。
そして、光秀の胸にヒシとしがみついた。

「帰蝶さまが輿入れするとはいえ、そなたが織田方の家臣の相手をせねばならないわけではない。そなたは帰蝶さまの侍女なのだ。密偵が必要であれば他のおなごを用意してもらうようお屋形さまに申し上げるゆえ、もう辛い思いはするな。」

楓は光秀の胸にしがみつきむせび泣いた。