無口な彼
第1章 よくわからない
何度見ても、変わらない無表情。
だけど見る度に、魅力的に見えて仕方ないのだ。
さすがは、学校1のイケメン。
そう思うとちょっとムカつく。なんだこいつ。女なんか両手からはみ出るくらい手に入るくせして、
遊び心にまかせたまま男にまで手を出しやがって。
しかもそれが俺とか。
俺は笑えない。ほかのやつが笑えるようなネタでも、俺は笑えないぞ。
篠原にキスされたなんて。
言葉にするのもおぞましい。女子になにをされるかわからないじゃないか。
くっそ。篠原の遊びに巻き込まれた俺って可哀想すぎる。
まだ、唇の感触消えねーし!
頭の中で悶々と考え込んでいたからか、少しだけ油断してしまったんだ。
睨みながら、もう一度篠原を見た瞬間、俺の心臓が爆発してしまいそうになった。
っ、何その笑顔ステキ。
さっきまで無表情だったくせに、篠原はとても嬉しそうな笑顔で、俺を見つめ返したのだ。
その綺麗さっていったりゃ、そりゃあ、もう。
無表情なんて比じゃないくらいの、美しさだった。
「そっか。田口、初めてか。」
そんな笑顔で、こんな事を言うもんだから、俺の頭はまたグワングワンと揺れ始めてしまった。
え、なに。なんで俺が初めてで嬉しそうなの。
篠原の美しい笑顔を直視していられなくて、俺は少しだけ目を逸してみる。
ほんと、なんだ。これ。
なに、ほんとドキドキしてんだ俺は。
あ、またグワングワンしてきた。
これ以上考えたら、なんか身が持たない気がして、俺はもう一度篠原に目線を戻した。
そして、唖然としたのだ。
そこにはもう綺麗な笑顔を見せていた篠原はいなくて、ただ無表情な篠原がドアをガラガラと開けていた。