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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第1章 《序章》

 対する少年の方には、憎しみだけではない何か、それは余人にも窺い知れぬような複雑な感情が揺れていた。
 頬を打たれた少年は少女を睨み据え、右頬を押さえている。
 思いきり少年の頬を打った少女の手もまた衝撃で熱と痛みを持っていた。少女の眼に悔し涙が滲んだ。
「心が醜いのは、どちらの方かしら」
 少女はそれだけ言うと、くるりと背を向けた。衵を着た華奢な後ろ姿が直に緑の茂みの向こうに消える。

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