テキストサイズ

無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第4章 参の巻

 帰りたい。家に帰りたい。父はどうして自分を迎えに来てはくれないのか。身の回りの世話をしてくれる若い女房―むろん公子が逃げ出さないように監視役もかねている―に筆と硯を貸して欲しいと頼んでも、首を振るだけだし、父道遠に迎えにくるように伝えて欲しいと言っても、これにも難しい顔で首を振るばかりだ。
「姫」
 泣いていた公子の頭上から、突如としてあの男の声が降ってきた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ