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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第4章 参の巻

 その朝も女房が持ってきた朝餉には全く手を付けなかった。汁粥と焼き魚、蘇(牛の乳を煮詰めて濃くしたもの、チーズのようなもの)だけの簡素な食事なのに、ひと箸も食べる気にならない。普段は好きな蘇ですら、いかな食欲が湧かなかった。
 手つかずのままの膳が空しく枕辺に置かれていた。その傍で、公子は布団に打ち伏して声を殺して泣いていた。

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