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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第5章 四の巻

 まるで奈落の底に突き落とされたかのような気分だった。帝の姿が落日の陽に長い翳となって夜の御殿に流れ込んでいる。広い部屋にある明かりといえば、その燭台の頼りなげな灯りだけで、隅の方は薄い闇が溜まったようにどんよりと暗い。その全体的にほの暗い部屋には淡い闇が垂れ込めているようでもあり、帝はまるでその闇が凝(こご)って人の形を取ったように、背後の闇に溶け込んでしまいそうなほどひそやかに立っていた。

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