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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第5章 四の巻

 公子は両手で力一杯叩いた。
「お願い、誰か、助けて! 誰か、来てっ」
―私、厭なのに。厭なのに、どうして―。
 誰もが自分の意思なぞ端からないもののようにふるまい、この男の許へと公子を連れてゆこうとする。
―お父さま、助けて。私はここにいるのに、どうして迎えに来て下さらないの。
 公子は心の中で父に助けを求めた。
 涙が溢れ、大粒の涙が白い頬をつたう。

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